そうじゃ。わしは最初から最後までこの目で見ておったのだ。わしの目に入った時、薄汚い鼠色の獄衣のまま、裸馬に乗せられ伊賀上野の街路をくまなく引き回される恥辱を受け、先頭の馬に背中合わせに縛られて乗せられておる葉も澄も、二頭目の馬に同様に乗せられておる月と美津もがっくりとうなだれておった。伊賀城代まで勤めた重臣の伊方喜三郎直常様の妻であり娘であったこの女たちには、こうして引き回されるのさえ気の狂いそうな恥辱じゃったろう。娘たちだけでないぞ。葉の頬も絶えず溢れる涙にぬれ、いくら抑えようにも抑えきれぬ嗚咽がその口から漏れ、末娘の美津は項垂れたまま激しく泣きじゃくっておった様がひと際哀れであった。しかし街道脇の処刑場に到着した時、四人の顔は一様にさらなる恐怖と屈辱にゆがまねばならなかったのはそれも道理、処刑場で四人の女を待っていたものは高さが二間はある四本の磔柱だったのよ。それもただの磔柱ではないぞ。女性用の十字型のそれではなく、下に一本の横木を付けた男用のキの字型の磔柱だったのじゃから、処刑と言う手も打ち首位を思っていて、それでさえ余り理の恐怖におののいていたこの四人にとって、それさえ悪夢であったに相違ない。さらにはその磔柱の周囲には竹矢来が組まれ、その周囲には数百もの町の者共が集まって、自分たちの到着を今や遅しと待ち構えておって、かく言うわしもその一番前でその竹矢来にしがみついておったのだから、斯様なんた陸地さえ実は余りにえらそうな気もせぬではない。何ただし伊賀上野の城下ではもちろんの事、津の浄化でさえ並ぶものはない美しい母娘四人の処刑じゃぞ。どうしてこれを見逃せるものか。それにしても恐ろしかったに違いない。
 「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…あうあっ…うああ…ひどい…ひどすぎます…そのようなこと…高通様お許しを…お許しください…。」
まず屈辱と羞恥に震えながら哀願し始めたは長女の澄じゃ。前の馬上で最初にその磔柱を目にした葉も信じられぬと言った顔つきじゃったが、娘の声に触発されたか震える声で、
「その様な事…あうああ…ああっ…そんな…あんまりでございます、私たちは武家の…武家の女でございます…せめて…せめて娘たちだけでももう少し…。」
と前を進む高通殿に訴え始めたの。しかし後ろの馬に一緒に乗せられている月と美津は、その磔柱を一目みるなりうなだれてさらに激しく泣きじゃくるばかりだったのう。葉の言うとおり戦国の頃の裏切り者の人質と言うならいざ知らず、武家の女を、それも喜三郎直常様ほどの大身の武士の妻であり娘である自分たちを処刑するのに、磔などみじめで無残な方法を採用するなどと言う話などわしさえ聞いたこともないわ。どんな重罪であれ、たとえ謀反の罪であれ、武家の妻女の自分たちがせいぜい打ち首で殺されると思っていたのも無理はなかろうて。だから磔など、それも男用の磔柱に縛り付けられて晒し者にされながら殺されるなど、とてもこの女たちに耐えられるものではあるまい。
 しかも前を進む高道殿、方道殿ほどの大身の侍がこんな時にこうして先頭に立つ作法があるのかとも思ったが、そらにそれに応じる様にこう四人にもうされたのにはわしも驚いたわ。
「ふふ、お前たちはあれに磔になるのじゃ。しかもその獄衣もはぎ取られて丸裸にされてな。」
鷲さえ驚いたのだから、もちろん裸馬の上の四人の顔にさらに驚愕と恐怖が走ったのを、見逃すわしではない。磔になる上にそれも全裸でじゃぞ。しかも下に横木が付けられているということは、あれに両足を大きく広げて縛り付けられるということじゃ。大身の武家の妻女が全裸のまま、女の最も秘すべき処までさらして縛り付けられ、衆人環視の中で悶え狂いながら殺されなければならぬのじゃぞ。最初から泣きじゃくっていた月、美津はもちろん気丈に訴えていた澄までも三人は恐怖と屈辱に言葉もなくうなだれ泣きじゃくるばかりじゃったが、母親だけあってさすが葉だけは違っておった。聞けば商家の出と言うし当然義理の母親だが、あれは並みの侍の娘よりよほど凛としておったし、実の母親と何の代わる処もなかったわ。
「ああうあ…ああっ…私は…私はどのような仕置きでも受けます、だから…だから娘たちはお許しください…お願い…お願いでございます…。」
泣きながら哀願する葉の言葉には、同じ殺されるにしろ、せめてもう少し誇りをもって死なせてくれ。自分は無理でも、せめて三人の娘たちだけでもきれいな死に様をさせてやってくれ、そんな心情に溢れておって、見物の女子の中には涙を零す者もおったほどじゃ。
 しかし男衆はこの趣向に大喜びじゃし、わしさえ大いにそそられておったのは否めぬ。無論、高通殿に通じる訳がない。振り向きざまに、そんな葉にいかにも憎体に、
「ふふ、むふふふ、謀反人の、かつ当人も謀反に加担せし女房と娘たちだ。どんな殺されようをされようが文句を言う筋合いなどないわ。」
と言い放たれたぞ。さらにどっと泣きじゃくる四人に向かって、
「おお、泣きおるわ。お前たち親子四人、裸に剥かれてあの磔柱に手足を大の字に広げて女陰までさらして縛り付けられ、たっぷりと辱められて苦しんで処刑されるのじゃ。謀反を試みるものへのよい見せしめになろうのう。」
とさらに言葉を続ける高通殿の顔は、既に鬼に魂を奪われている顔そのものじゃった。しかし葉はなお諦めきれぬ呈よ。
「見せしめは私が…葉がなります…ですからどうか…どうか娘たちはご容赦を…。」
葉はしかしそんな高通殿になおできうる限りの真心を込めて訴えておったが、しかしそれを面白そうにせせら笑う高通殿と葉、澄、月、美津の四人の美しい犠牲者の一行は周囲を警固のものに囲まれたまま、すぐにその磔柱囲む竹由来に到着したのじゃ。

 それを待ち構えておった数百の群衆は少しでもこの、城下でも評判の美しい親子の裸体を近くでみようと群がりよってきて、警固の小者たちに棒で阻止される騒ぎとなった。もちろんわしもその一人で、その際警固の者に棒で肋を突かれ、息が止まりそうになったものじゃ。その間を通って高通とその家来、小者達、葉、澄、月、美津の四人は竹矢来にはいり、見物も含めた男たち、もちろんわしもじゃろうが、の顔がいよいよ嗜虐の笑みを満面に浮かべるのに対し、ようやく裸馬からおろされて並んで地面に引き据えられた葉たちはいよいよ美しい顔を蒼白にし、いくら部無の才女であり娘としての誇りを保とうとしても、余りの恐怖に耐えかねているに違いない、四人とも全身が震えてくるのをどうすることもできない様子じゃった。なにしろ自分たちはこれだけの者の前で裸にされ、この磔柱に四人並んで大の字に縛り付けられるのじゃからな。そして残忍に殺されるのじゃからな。そんな四人の前でまず向かって右側の二つの磔台が地面に倒されたのよ。
「まず月と美津を磔にせよ。両足を思い切り良く広げてな。」
高通殿の言葉と同時に、小者たちがわらわらと、うなだれて泣きじゃくるばかりのまだ歳若い二人に歩み寄ったわ。もちろん何のためか分からぬ訳がない。
 「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…ヒウキャアアアーアッ…いやです…母上…姉上助けて…お願いいやぁーっ…ああっ…ああ…高通様お許しください…いやぁーっ…いやぁーっ。」
月は美しい顔を蒼白にし、細かく震えながら許しを乞うばかりじゃ。
「キャあそアアアーアッ…ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…そんなの…そんなのいやだぁーっ…あうあ…ヒイイイィーイッ…怖いよう…母上助けて…姉上助けてぇーっ。」
一方、まだ十五でいかにも子供子供しておる美津の方は見るも無残に泣きじゃくり泣き狂い訴えながら、自分を捕えようとする手から逃れようとのたうち回っておった。いくら覚悟していてもまだ十五、六の小娘じゃ。裸に剥かれた上で大の字に磔にされることが恐ろしくない訳がない。恥ずかしくない訳がないわ。二人は無残にのたうつっておったがたちまち獄衣を剥ぎ取られ、裸にされた体を丸めて群衆の視線から肌を守ろうとしておった。しかし月と美津はもちろん、それを見せつけられる葉と澄にとっても思いも付かぬ恐ろしい趣向を高通殿は用意しておられたのじゃ。
 小者たちは泣き悶える月と美津、二人の少女の体を抱えあげて地面に横たえられているキの時型の磔柱に横たえると、まず荒縄で美しい乳房の上下を磔柱に縛り付け、さらに左右から交叉させて厳重に縛り付けた。さらにうなだれることを許さないためであろう、首もしっかりと磔柱に固定したのじゃが、これだけならただの磔じゃ。小者たちは必死で胸を覆う両手を左右に広げて上の横木にしっかりと押しつけると、その手首になんと太い五寸釘を打ち込み始めたのじゃ。
「アギウギャアアアーアッ…ヒャキャアアアーアッ…あぐひっ…アヒギイイイィーイッ…痛いーっ…お許し下さい…痛いーっ。」
「やめて…お願いやめてぇーっ…あひあうっ…グアギャアアアーアッ…キャギャアアーアッ…ヒャギヒイイイィーイッ…。」
たちまち二つの悲痛な、しかしわしら見物にとっては甘美そのものの絶叫が刑場にこだましたわ。もちろん葉と澄はその様を直視などできずに目を堅く閉じ、顔を背けて泣きじゃくるばかりじゃが、しかし小者たちは両腕を左右に広げて月と美津の両腕を磔に釘付けにし終わると、今度は両足の番じゃ。
「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…いやです…こんな事いやです…いやぁーっ。」
「お許し下さいっ…ああっ…片道様おゅねしを…こんなこといやぁーっ…いやぁーっ。」
二人とも必死で膝を閉じ、腿を捩り合わせて抵抗しようとしておったが、小者たちは容赦無く生木でも裂くように二人の美しい娘たちの両足を左右に広げて下の横木に押し当て、その足の甲に手首に打ち込まれたものと同じ太い五寸釘を打ち込みおった。
「ギャウキャアアアーアッ…痛いーっ…ヒャアアアーアッ…ヒャアアーアッ…助けてください…高通様助けてぇーっ。」
「ウアヒギャアアアーアッ…ヒアギィエエエーエッ…ヒギイイイィーイッ…ああっ…うああっ…母上…姉上助けて…痛いーっ。」
再び刑場に二つの可憐なだけに一層無残な絶叫が響き渡ったのじゃ。

 やがて刑場に再び立てられた二本の磔柱には十六歳の月、十五歳の美津の二人の体が、もちろんね一糸たりとも纏うことを許されず大の字に縛り付けられ、釘付けにされておったのよ。全裸で美しい裸体を余す処なく人々の目にさらした月と美津は、その初々しい乳房も下腹部を覆う茂みも、女の処そのものまでもこれだけの群衆にさらす恥ずかしさと手足を釘付けにされた苦痛に真っ赤になり、しかし首に巻かれた縄のためにうなだれることもできずに無残に泣きじゃくっておった。その頬を美しい涙が次々に伝うが、しかしもうその口からは哀願の言葉さえなく、それが聖女そのままの月、いかにも可憐な美津の姿をさらに哀れに、さらに無残に見せており取り巻く群衆の間からため息とも嘆声ともなんともつかないざわめきが起こったものじゃが、恐らくそれはこの磔にされたばかりの二人の少女の耳には入りさえしなかったに相違あるまい。しかし磔柱はさらに二本が残っておって、きっとわしらが月と美津の釘付けに文字通り視線を釘付けにされ気づきさえせぬ間に地面に引き倒されておったのじゃ。そして高通殿が無造作に、
「さて次は澄、お前の番じゃ。」
いうと小者たちが一斉に顔を伏せてむせび泣いている長女の澄の両腕をとり、その肌から獄衣を毟り取りおった。
「ひどすぎます…あんまりです…あんまりでございます…。」
澄はうなだれて、両腕で胸を覆って抗議しておったが、小者たちはそんな澄をひきずるようにして既に地面に横たえられている磔柱の処に連行していった。
 「ああっ…高通様…高通様お許しください…せめて…せめて妹にも何か着させて下さいまし…。」
さらに目にした二人の妹の姿のあまりの無残さに必死で懇願する澄の言葉にも、高通殿は平然と、
「ふふん、謀反人の女房子供など素っ裸でさらしものがお似合いじゃ。精々色っぽく泣くがよい。」
と嘲り笑われて言い放たれるばかりで、やがて諦めた様に磔柱に横たえられてしまわれた澄は、せめて見苦しい姿をさらすまいとするかのように堅く唇を噛み目を閉じて羞恥と屈辱に耐えておった。それでも乳房は両手でしっかり覆われ腿はぴったり閉じ合わされるのが何とも言えず哀れを催させたものじゃが、処刑する方は情け容赦もなくて、ただし処刑されるものに一々情け容赦をしておれば処刑などできるものではあるまいが、そんな澄の体は小者たちにより妹たちと同じように荒縄で柱に縛り付けられ、両手を乳房から引き剥がして横木の上に縛り付けられしまわれたのじゃ。ただし手首に釘を打ち込まれても、澄は小さく呻くばかりじゃったのはさすがは長女、気丈なものと見物も感心しておった。
「ああっ…お許しください…お願い…そればかりはお許しを…。」
しかしさすがに死に物狂いで捩りあわせる両足を左右に広げられる時、十八の来月は嫁入りするはずだった娘の口から、初めて哀願の言葉が漏れたのは致し方あるまい。しかしそれが聞き入れられよう訳もなく、澄の両足は無残に左右に広げられ、足の甲にも鮮血を飛び散らせながら五寸釘が打ち込まれてしまったのじゃ。
「ぐぐっ…ヒイイィッ…うぐぐっ…。」
しかし澄はその時ですら唇をかみしめ、脳髄まで貫くような苦痛にわずかな呻き声をあげるだけじゃった。
 やがて澄を大の字に縛り付けられた磔柱が妹たち二人になんで処刑上に立てられた時、そのあまりに無残な美しさに、群衆の間からさらに大きなどよめきが起こったものよ。もちろん大柄なりに均整のとれ、澄の妹たちより女らしさを見せている形良い乳房も、少し濃いめの茂みに覆われた下腹部も全てさらされてしもうて、そしてその姿からは妹二人にはないなんとも言えぬ清々しい色香が漂っておったものよ。そせにはわしらの視線がどこに集中しているのか痛いほど感じておるのであろう、澄の口からは
「ああっ…ああ…見ないで…お願いでございます…見ないでくださいまし…。」
と耐えかねたように哀願が漏れるが、妹の月、美津と同様首に縄がかけられているためうなだれることさえ許されぬ。もちろんその哀願を聞き入れる道理もなく、澄、月、美津と三人並んで磔台に釘付けにされた美しく若々しい姉妹の姿に、我等の視線はいよいよ狂熱の度を増すばかりじゃ。期せずして群衆の間から一斉に声がかかったのはその時じゃ。
「あと一人早よう出せ。早よう出せい。」
「そうじゃ、さっさと母親を磔にするのじゃ。」
「今になって出し惜しみするでない。」
その声は磔台の脇に連行され、まだ獄衣を着たままうなだれて涙に呉れるばかりの葉の耳にどれほど残酷に響いたであろう。ただし高通殿はなおさらに面白くて堪らなそうに、
「ふふ、皆の者はああ申しておるわ。さっさと磔にしてやろうぞ。」
と言い放たれると、小者たちも待ちかねて負ったに違いない、もう言葉もない葉の肌から獄衣を剥ぎ取り始める。
 「ああううっ…あうあ…そんなありまりでございます…そのような…。」
葉もうなだれてうずくまり、恥ずかしさに真っ赤になってすすり泣きながら絶え絶えに訴えていて、もちろん覚悟はしていてもこの姿で大の字磔になると思えば、そのみじめさ恥ずかしさは頭が破裂せんばかりであったのは、わしらのような下賤な者にも十分に想像はつこうと言うものじゃ。しかし小者たちはそんな葉のしなやかな体を抱えあげ磔柱に横たえたのじゃ。澄の毅然とした態度に習った訳でもあるまいが、葉も目を閉じたまま顔を背け磔台に体を縛り付けられるに委しておった。しかしその瞼からは次々に涙が溢れる涙ばかりは、どうしようもなかったであろうのう。
「ウアキヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…ああっ…ああ…。」
やがて両の手首に釘が打ち込まれるが、美しい唇から抑えかねたような悲鳴が漏れたばかりじゃ。しかし両足を大きく広げられて下の横木に押し当てられて釘を打ち込まれると、さすがにこの美しい若妻の口からはその激痛に無残な呻き声がもれ、体は無残にのたうったのよ。

 やがて葉を大の字に釘付けにしている磔台は、同じ無残な姿をさらしている三人の娘に並んで処刑場に立てられてしもうた。向かって左から歳の順に葉、澄、月、美津の順に大の字に磔にされている母娘の姿は余りに無残で、惨めで、哀れで、何より美しうてその姿にわしらの目は文字通り釘付けになってしもうた。もちろんこんな姿にされても諦めきれなかったに決まっている、
「ああっ…あううっ…娘たちはお許しください…ああっ…高通様…高通様私を…私をお仕置きくださいませ…。」
母の葉がなおも娘たちを救おうと、必死で高通たちに訴えている様は何とも言えず痛々しい。
「母上…私も…私もお供をします…ですから妹たちは…妹たちだけでもお助けください…。」
その隣で気丈な澄もまた懸命に哀願を繰り返しておった。
「ああっ…ああ…早く殺して…ひと思いに…ひと思いに死なせてくださいまし…。」
その隣がうなだれることさえできないままに、美しく端正な顔を真っ赤にして心のそこから死を願っているのは次女の月じゃ。その表情と言い、姿態と言い触れべからざる神聖なばかりの美しさを漂わせ、それだけ全裸で大事に釘付けにされたその姿は一際無残だったものよ。そして右端では可憐そのものの美少女、まだ十五歳の美津が無残に、まさに身も世もなく泣きじゃくりながら、
「ああううっ…あうあっ…うああっ…怖いよう…ヒイイイィーイッ…母上…姉上…母上助けて…ヒイイィーイッ…怖い…私…私死にたくない…怖いーっ。」
と泣き狂い泣き叫びのたうち回っておった。まだあどけなさを残している美少女の大の字に磔にされて身悶え泣き叫んでいるその姿には、わしの目も一層熱を帯びたものよ。
 さらに子細に見れば美津だけではない、隣で死を願っている月も、娘や妹たちを思い必死で哀願している母の葉や長女の澄もその体は激しく震えておって、耐えようとしても耐えられぬように震えておったが、所詮か弱い女の身、死ぬのが怖いはずじゃ。本音は泣き叫びだしそうなほど恐ろしいのじゃ。恥も外聞もかなぐり捨てて命乞いをしたいのじゃ。ただ彼女たちの武家の奥方であり娘たちである矜持があり、それを許さないだけなのじゃ。それがわかるだけに大の字磔にされて泣き、悶え、哀願し、悲鳴をあげる美津姿同様に集まった我等町の者たちを刺激せずには置かなかったのじゃ。でのう、最も興奮しているのは高通殿じゃった。竹矢来の内側の高通殿はそんな四人の前を、大股でゆっくりと往復しその様を楽しんおられる様子じゃったが、その顔にはいかにも残忍でおぞましい笑みが張り付いたようになっている上に、頬がひくつき、目は真っ赤に充血し、唇は時折痙攣してとても三十二万石を領する藤堂様の御次男とは思えんかったのう。がて四人の中央に足を止めた高通殿が大音声を張り上げて、
「ええい静まれい。皆の者、少し静まれい。」
と大音声を張り上げられて、そのあまりの大声に四人ばかりかわしたちまでしんと静まりかえったものよ。
「伊賀上野城代伊方喜三郎直常の妻葉、およびその娘澄、月、美津、合計四名を大殿に謀反を試みたる罪でこれより死罪に処す。」そしてその中に高通殿の声は激しく響き渡り、それは刑場ばかりかその脇の往還にまで響き渡ったであろう。ただしなお諦めきれなかったに決まっておる。
 「あああっ…あうあっ…そんな…そのようなこと濡れ衣でございます…どうぞ…どうぞお許しを…。」
真っ先に言葉を発したのは長女の澄じゃったが、全裸で大事に磔にされてもなお訴えかけるその様は無残であり、またどうしようもなく哀れで惨めで、それでもやはり美しかったのう。
「それは…それは私一人がやったことでございます…娘たちは何も存ぜぬこと、娘たちは…娘たちはお許しください…。」
さらに何とか毅然とした態度を保っていた葉も必死の表情でそれだけ言うと、もとはと言えば商家の出、恐ろしくもあり惨めでもあり、わっとばかりに泣きじゃくり始めたものよ。
「ふうむ一人は自分一人がやったと言い、一人はまったくの濡れ衣という。それがすなわち謀反の証拠じゃ。お前たちはこれから火炙りになるのじゃ。」
高通殿は余り理に平然と恐ろしい事を言い放たれて、その言葉に四人は一瞬何を言われたか分からぬようにしていたが、すぐにその口からは、
「そんな…そのような恐ろしい事…。」
「ヒイイイィーイッ…ああっ…ヒイイイィーイッ…。」
「あんまり…あんまりでございます…。」
「いやぁーっ…殺すなら…ああっ…殺すなら一思いに…。」
と悲痛な声がほとばしりおったが無理はない。
 戦国時代とは違うて、わしでさえも今の世に付け火の罪以外に火炙りになるなど聞いた事がないわ。それも多分に見せしめで、処刑される者は前もって首を切られて事切れておることが多いそうな。しかし高通殿の考えは、当然ながらそんななま易しいことではなかったのじゃ。
「ふふ、普通火炙りは柱に縛り付けた罪人の周囲に薪を積み上げて一気に焼き殺すものじゃが、お前たちのような極悪人にはそれでは手ぬるい。そこで南蛮で悪鬼と契ったものを処刑する方法で火炙りにしてつかわす。つまり大の字磔そのままの姿で下に薪を積みあげるのじゃ。その薪に火を付ければ、ふふ、母娘四人、下からの炎にあぶられて無残にのたうち回り、泣き叫び、喚き、大の字に釘付けにされた手足や身をよじりながらじわじわと焼き殺されるのじゃぞ。」
それにしても高通殿は余程執拗で残忍な性格…、は、大殿の次男だからと言ってはばかる事はないぞと、では遠慮なく申しますが、な方と見えてねちねちと説明されて、四人が言葉を失う様まで楽しみながらさらに言葉を続けて、
「普通の火炙りの場合は周囲から焼かれるので苦しいのは一瞬じゃが、この場合は体の下から焼かれるから中々死ねぬぞ。女の処が黒焦げになり、乳房が焼け落ち、腹が裂けて腸がたれ下がっても死ねないと聞く。なんと頼むから死なせてくれと頼みながら焼き殺されるのじゃそうじゃ。どうじゃ、面白そうであろうが。」
とようやく話し終わるなり、葉、澄、月、 処刑される前にさらしてしまったこの醜態…、気丈な澄の胸のうちは想像するに余りあるが、わしも大笑いしておった口じゃから偉そうなことは言えぬ。しかしそんな澄の体の下に積み上げた薪に、容赦無く小者の手にした松明の炎がつっこまれたのじゃ。
「ヒャグアキャアアアーアッ…ヒイイイィーイッ…ヒウキャアアアーアッ…お願い助けて…助けて下さい…いやぁーっ…ああっ…ああ…ヒイイイィーイッ…。」
きっと上から薪が燃え上がるのを見下ろしていて澄はさぞ恐ろしかったに決まっている、その徐々に大きくなる炎にとてもあの落ち着きのある澄と萌え萌えぬ無残な声で張り上げて泣き狂い泣き悶えのたうち始めたわ。しかしその炎がゴォーッという音を立てて燃え上がり、そんな澄の下半身を舐めるのに、そう時間を要しはせなんだ。
「アグヒャギャアアアアーアッ…ヒグキイイイィーイッ…ヒグキャアアアーアッ…アグヒイイイィーイッ…熱いーっ…熱いーっ、ギャウキィエエエーエッ…お許しください…キャギャアアアーアッ…ギイイイイーイッ…。」
澄もまた母親以上に無残に泣き狂い、のた打ち回り始めたのだが、しかし思っても見よ。美しく、さっきまで泣き言一つもらさなんだ気丈な十八の娘が磔柱に大の字に釘付けにされて下半身を炎に焙られ、そしてのた打ち回って苦悶しているのじゃ。泣き狂い、哀願し、絶叫し、悲鳴をあげているのじゃぞ。その様は澄が気丈なだけに、さらに無残で哀れで、そして凄絶なまでに美しう思われた。
 「ヒャグギャアアアアーアッ…ヒアギャアアアーアッ…アグギャアアアーアッ…お助け下さい…熱い…熱いーっ…ガウギイイイィーイッ…お許しを…熱いーっ…熱いーっ。」
その隣で、彼女の母の葉がやはり同じように炎で焙れて泣き狂っておって、反対側ではこれから同様に火炙りにされる澄の二人の妹がやはり大の字に釘付けにされて泣き悶えておるその様は…、おお、確かにその時には刑場全体が何とも言えぬ興奮にとらわれておったが、言うまでもなくその二人にも恐ろしい刻はもう目の前に迫っておったのじゃ。
「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…ああううっ…火炙りはいやです…姉上…母上…助けて…。」
しかしその隣の月は恐怖に耐えきれず絶え絶えに呻きながら気を失ってしもうた。無理もなかろう。隣で母と姉が生きながら炎に焙られ泣き狂っているのじゃからな。その様もまた見物の群衆を悦ばせおったが、しかし続いての高通殿の行動は常軌を逸しておったのじゃ。
「ふふ、滞在人の分際で勝手に失神し憂き目から逃れようなど図太いにも程がある。こうしてくれるわ。」
高通殿はこういいながら小者の手から松明をひったくると、何とそれを失神したままの月の無残に広げられた股間に近づけたのじゃ。
「ああっ…ヒャグキャアアアアーアッ…ヒアギャアアアーアッ…熱い…やめてぇーっ…熱いーっ。」
たちまち月の股間を恥ずかし気に覆っておった翳りが燃え上がり、哀れな聖女は女の処の焼けただれる激痛に意識を回復しおったが、しかし続いての高通殿の振舞には小者たちはもちろん、わしたちまで仰天したわ。
 高通殿はなおさらにおぞましいにも程がある目で月を見つめておったが、意識を回復して泣きじゃくる月の下に積み上げた薪に自ら火を付けられたのじゃ。そもそも処刑なんぞは身分のある者のすることではなくて、下賎の者の役目じゃぞ。それを大殿の御次男自らが目を血走しらせ、城下の群衆が見ているその前で行なっておるのじゃぞ。これが仰天せずにおらりょうか。わしの回りからも今までとは違ったどよめきが起こったものよ。ただしその時には燃え上がる炎にも死に物狂いで耐えようとしている様で、南蛮の聖女のように美しい月は死を覚悟していたのかもしれぬ。しかしそれでも炎に焙られてのたうち狂う哀れな姿をこれほどの群衆にさらすのは耐えがたかったのであろうが、しかし炎が肌を舐めればそんなことは言ってはおられぬ。月は葉や澄と同じように、いや気高く美しい分それだけ無残にのた打ち泣き狂わねばならなんだのじゃ。
「ギヒャキャアアアアーアッ…ヒアギャアアアーアッ…グウギャアアアーアッ…熱いーっ…早く…せめて早く死なせて…熱いーっ、ギィギャアアアーアッ…殺してください…いやぁーっ…高通様お願いです…。」
そしてなおさらに無残に泣き狂い泣き叫んで絶叫し哀願し、月も母や姉と同様、いやそれよりも無残だったかもしれない姿をさらす事で、われら見物の目を楽しませたものじゃ。
 「ふふ、月、琴の音も美しかったがその泣き声も美しいぞ。」
その絶叫、その苦悶の様を楽しみながらそんな事をうそぶいていた高通殿はいよいよ最後の一人、末娘でまだ十五歳の美津を磔にしている柱のもとに歩み寄ったのじゃが、その手にはしっかりと火の付いた松明が握られておって、わしらの間からまたもどよめきが起こったのも無理はないわ。高通殿はそんなことには一向気にかけず、むしろ自慢さえする呈であったがしかし哀れなのは磔になっている美津という娘じゃ。いかにも可憐な娘だけになおさら無残な声さえ振り絞って、
「アキャキヒイイイィーイッ…ヒイイィーイッ…怖い…怖いよう…母上いやぁーっ…私…私死にたくない…死ぬのはいやぁーっ。」
美津は母のように娘たちを気遣うこともなく、澄のように恐怖と屈辱に耐えることもできず、月のように一刻も早い死を願うこともなくただ無残に泣き狂い、命ごいをし、のた打ち回り続けるだけじゃった。まだ十五歳の可憐そのものの少女のその姿はどうしようものう哀れに無残だったものよ。武家の娘の誇りを持て、などと十五の娘に言っても所詮無理というものじゃ。まして彼女の母と姉たちは炎で焙られて無残に泣き狂っているのじゃから、むしろこれでこそ自然と言えようのう。しかし高通殿は、先に火で焙られている母や姉たちの泣き叫ぶ声にかき消されぬようにするつもりか、殊更大音声で、
「ひひっ、美津、怖いか。恐ろしいか。しかしすぐに母や姉たちと同じ目に遭わせてやるからのう。」
と言うと、手にした松明で月の時と同様に下に積まれた薪に火を付けられたのじゃ。
 その瞬間美津の可憐な目は大きく見開かれ、体が何とか炎から逃れようとするかのように身悶えながらのた打ち回ったわ。そしてその直後にはなおさら無残な声を張り上げて、
「ギャウアキャアアアーアッ…ヒグキャアアアーアッ…怖いよう…熱いわ…熱いーっ…ヒグキイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…助けてぇーっ…ああっ…ああ…誰か助けてぇーっ。」
泣き狂い泣き叫んで悲痛で可憐な悲鳴と哀願が連続してほとばしったものよ。しかし薪は母や姉たちの時と同様いよいよ激しく燃え盛って、やがて姉の澄の時と同様、彼女の股間から失禁した尿がほとばしり、観衆の間から哄笑が起こったものだが、その時には炎はこの可憐な美少女の肌に触れるように苛んでおったから、もちろん地獄だったに決まっておるし、このような美少女何場なおさらの地獄だたに決まっている。
「ヒグアギイイイィーイッ…ウアギャアアアーアッ…ヒウギャアアアーアッ…熱いよーっ…母上助けて姉上助けてぇーっ、キイイイィーイッ…うああっ…ウギャアアアーアッ…ヒャアアッ…ヒャアアアーアッ…熱いーっ…ヒャアアアーアッ…。」そして母と姉たちと同じように、生きながら焼き殺される地獄の責め苦に無残に泣き叫び、泣き狂わねばならなんだのよ。


                                 処刑乱痴気