一体誰じゃ。伊方喜三郎直常殿の妻葉殿、ならびにその息女である澄殿、月殿、美津殿の最後について、あれやこれやとあらぬことを申し立てておるのは。確かにそれがしが処刑の場に立ち会いて、最初より最後までしかとこの目で見ておった。従うてそれがしの申す事こそ紛れもなき真実なる事は、疑いもござらぬ。火焙り、しかも南蛮風のとな、笑止であろう。それだけに盛大に火を焚いたならばその跡が残っておらねばならぬはず。ございましたかな、そのようなもの。陰も形もなかったでござろう。股間から口まで串刺しにしたと。いかにか弱き女どもと申しても相手は大の字に縛りつけられて苦痛と恐怖にのた打ち回っておるのだぞ。そんな器用なことが出来るとお思いか。牛やら馬を使って体を引き裂いたと。公衆の面前で蛇を使って辱めた挙げ句、矢を打ちかけ、或いは鉄砲を撃ちかけたと。大きなやっとこで全身の肉という肉を毟り取って嬲り殺しにしたと。妖しき僧が面妖なる術を使って責め殺したとな。それではそもそも死体が見つからぬことの説明がつかぬ。なに、天魔のごとき物がかっさらったと。貴公たちは正気か。いやいやこれはご無礼。しかし公衆の面前でそのような不思議なことや怪しからぬ振る舞いに及べば、さらなる大騒ぎにならねばならぬはず。そもそもご次男とは言え藤堂藩の藩主の息が、そのような戯けたことをなしたと本気でお考えかな。何と佐渡守高道様にはご狂乱の気味之有りとな。おいたわしいことではあるが、ある意味目出度いと思えぬでもない。ううむ、が、しかしなおさらそのような方に、そのような複雑怪奇なことなど考えられぬのではござらぬか。ほほう、処刑が始まるまでは何とかまともであったものの、自ら演出せし処刑の刺激に侵されて狂を発せられたとかんがえられておると。はて解せぬこと。武士が女子の血を見ておかしくなるようでは武士ではござらぬ。ともあれそれがしの見しことを詳らかにお話しいたそう。

 まず裸馬に乗せられて市内を引き回されて後に往還沿いに俄に設けられた刑場に到着した葉殿、澄殿、月殿、美津殿は右からその順に磔柱に縛りつけて高々と晒され申した。はて衣類はどうしたかとな。いやしくも武家の妻女だぞ、白装束に決まっておろうが。まさか裸みたさに衣類をはぎ取って磔にしたというのではあるまいな。磔柱もちゃんとした女用の十字型の磔柱じゃ。何とな。裸にして大の字に晒したのではないのかだと。だから馬鹿なことを申すなと申しておる。たとえ狂を発する語気配があったとはいえ大殿の御次男が自家の重臣の妻女をそんな哀れな姿にして、その上に町人や旅人どもの目に晒しなどすれば、高通様だけではない、津藩の太守藤堂家の面目が丸つぶれだし、それにそもそもそんな事をして一体何が面白いのだ。まぁ異例と言えば高道様自らが処刑に立ち会われたことだが、それがあのようなことになるとは…。しかしそれは追って話さねばならぬ。何、見物の中に脇腹を押さえてうずくまっていた男はおらなんだかと。おお、言われてみれば確かに頭に血が上ったか、騒ぎすぎて小者に棒でわき腹を突かれて地面にうずくまっておった男がおったように思うが、それがどうしたというのじゃ。いや、確認したまでと。まあよい。無論それがしはこの四人にどのような罪が有るのか知っておった訳ではない。しかし高通殿が弟高堅ず大殿に謀反を意図してこれに加担したのが伊方喜三郎直常なる事、その証拠によりり明らかだから、見せしめのためにこの妻子四人を処刑すると言っておる以上、我々がそれに歯向かうなどできるものではない事は、お主たちにしても分かっておるであろう。
 それにしても磔にされし四人の姿は無惨で哀れであった事に相違ござらぬし、四人がかほど羅美しければ町の者たちを大いに悦ばせていたのも間違いない。葉殿はいかにも若妻らしゅうに何とも淑やかげであったし、澄殿はしっかりとして泣きじゃくっている妹御たちを励ましている様子も健気に美しゅうあった。この二人は年かさであり、また妹たちの世話をしておったいたためであろうか、武家の誇りを片時も忘れまいとしているようであったが、それにしてもこれから殺されるのだから、膝の辺りが細かく震えておってなんとも哀れに思えたものよ。この二人に比べると十六の月殿、十五の美津殿はいかにも恐ろしさに耐えきれぬ様子で、なんとも臈たけて美しい月殿もまだまだ子供らしき様子の美津殿もうなだれたまま、ただただしゃくり上げておったが、そう、それは何とも哀れでは有ったがそれだけになんとも美しかった事は、それはわしとて認めぬわけには参らぬ。さてどうやって殺されたかだと。磔じゃぞ。左様両側より槍で罪人の脇腹より反対側の肩へと突き通して、これを十六回繰り返した後で喉元に止めを刺すに決まっておるであろう。ただ高道殿はいかにも苦々し気に、
「この様な重罪人は一人一人作法に乗っ取って殺すのはいかにもつまらぬ。一人一回づつ、順々に錆槍にて刺し通していき、母が、娘が、姉が、妹が、血塗れになってのた打ち回り一人一人息絶えていく様を見せつけよ。誰が一番最後まで生き残っておるか楽しみなことよ。」
と申されてからからと打ち笑われた様は、それがしもいささかどうかとは思うたのは間違いのなき事であった。

 そこでまず最初に直常殿の妻、葉殿が槍にかかったのだ。
「私は…私はどのような目にも遭います…だから…だから娘たちはお許しを…ああっ…あああ…ああっ…。」
葉は磔柱に縛りつけられてもなお、必死で高通殿に訴えておった。町人の出とはいえその様には気高ささえ感じたものだが、高道殿は相変わらずいとも快げに、
「そのように申しても一人では寂しかろう。娘たち共々地獄に行け。」
と仰せられると錆槍を持って控えている下人たちに、
「お前たちはどうしてそうちょこなんと控えておる、さっさと始めか。」
と声をかけてきて、まさか大戸の御次男自らこの様な事を言われようとは誰も思っていなかったから、言われた方は仰天したような顔付きであったぞ。とはいえたかみちどの自らに指示されたのなら従わぬ訳にはいかぬ。槍を手にした下人たちはそんな葉殿の目の前に進み出、作法通りにその穂先を葉殿の目の前でチャリンと音を立てて交差させたのじゃ。覚悟はしておっても町人の娘、葉殿は大きく目を見開き、
「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィッ…いやぁーっ…ヒイイイィーイッ…ひああっ…ああっ…。」
と悲鳴を上げながら身悶え始めたが、しかしその様さえも美しう思われたことも相違はござらぬ。
 しかし二人の下人は顔付きも変えず槍を手元に手繰り寄せると、今度はそんな葉殿の左右の脇腹目がけてえいっと掛け声を上げて繰り出したのじゃから、二つの何とも鈍い音ともに、その脇腹を一気に貫いて、もちろん堪ろう訳のない葉殿は、その体を激しくのたうたせ戦慄かせて、
「うおがあっ…ウグギャアアアーアッ…ウアギャアアアーアッ…ヒイイイィーイッ…お助けを…痛い…痛いーっ…ギヒイイイィーイッ…痛いーっ。」
と泣き叫び泣き狂い溢れる鮮血に白装束がたちまち朱に染まったのじゃ。何だと、貫いた音はなしかと。ああ、あんなものを入れた入れた分はこの当時に遭ったかどうか、わしはなかったと思うしそんな事はどうでもよい。こはいかな事、本来肩まで貫かねばならぬ槍が一尺も体にめりこんでおらず、これでは中々死ぬことは叶うまいと思うたのだが、下人たちは動じる様子もなく傷を広げてさらに罪人を苛むために、槍を回しながら引き抜いてしもうた。もちろん葉はなおさらに無残に、
「アグアギャアアアーアッ…ぐわわっ…グヒャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…痛いーっ…痛うございます…うああっ…ウヒャアアアーアッ…ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…。」
とさらに恐ろしき呈にて泣き狂い泣き叫びのたうち狂って苦悶して、そんな葉殿の脇腹は無惨に裂けてはらわたまでもはみ出してしもうた。さすがにその様は無惨なれどもこれのみではすぐ死ぬことも叶わず、さらに無惨にのた打ち回る葉殿の姿を快げに眺めながら、高道殿は平然と
「次は澄じゃ。澄を田楽刺しにしてやれい。」
と申されたのだ。
 澄はしっかり者のとの評判であったが、所詮は十八の小娘じゃ。しかも母上が目の前で槍でわき腹を貫かれて血みどろとなってのた打ち回って泣き叫んでおれば、さすがに恐ろしいのであろう。
「お許しください…いやぁーっ…あああっ…母上…母上助けて…いやぁーっ…ヒイイイィーイッ…ああっ…ヒイイイィッ…あああ…お願いです…母上いやぁーっ。」
と激しく身悶えながら無惨に泣きじゃくって訴えておって、堪えようとしても溢れる涙が頬を伝っておるのが哀れに思えもしたが、そんな澄の目の前でついさっき母の体を貫いてその血を滴らせている槍の穂先がチャリンと交差されると黙ってしまったのも哀れであった。ただしいくら哀れでもかかる重罪人の娘ならばゆむをぇぬ。一旦引かれた槍により、その左右の脇腹が容赦なく貫かれ抉られててしもうたのだ。もちろんその激痛は地獄であったのであろう。
「アグウギャアアアアーアッ…アヒギャアアアーアッ…うぐあっ…ヒギィエエエーエッ…お許しを…痛いーっ…痛いーっ…あぎあっ…ウアギャアアアーアッ…ギャキャアアアーアッ。」
と母に劣らぬ無残な声を張り上げて泣き狂い、両の脇腹の傷から溢れる血に全身を朱に染めて見るも無惨なる様子でのた打ち狂うわねばならず、十八の娘盛りの美しい娘が左右から槍で貫かれてのた打ち回る様は誠に無惨の極みであったが、やはりその脇腹から槍が引き抜かれると同時に傷口からは腸などがあふれだしなおさらに無残なる様子にて、
「ヒャグギィエエエーエッ…ぐえええっ…グギャアアアーアッ…ギャアアアーアッ…うあおっ…苦しいよう…痛いーっ…母上…母上助けて…ギあギャアアアーアッ…あぐえお…。」
とやはり死ぬことも出来ずのた打ち回るその様、中々無惨などという言葉で言い現わせるとも覚えなかった。
 「次は月じゃ。こやつも特に美しい娘故、思う存分にのた打ち回らせてやれい。」
母の葉殿に続いて澄殿をも血祭りにあげて無惨にのた打ち回らせた高道殿は、いよいよ機嫌良うに申されたのだ。しっかり者で評判の葉殿や長女らしゅう気丈に振る舞っていた澄殿さえこの有り様じゃ。末娘の美津殿はいよいよ無惨に泣き叫んでおったが、月殿は哀れにもがっくりと首を垂れて気を失ってしもうておったのだが無論容赦はない。
「このままではつまらぬ。水を浴びせい。」
と高道殿が申されると桶の水が左右からそんな月殿に浴びせられ、そして呻きながら目を覚ました月殿の目の前で、下人どもは槍を見せつけるように音をたてて交差させたのだから、それは堪らぬ。月殿の美しい目は信じられぬように見開かれ、いかにも取り乱した様子で、
「あうああ…キャアヒイイイィーイッ…ひああっ…ヒイイイィッ…いやぁーっ…死ぬのいやです母上…死ぬなんていやぁーっ。」
と泣き叫びのた打ち始めらたのでじゃが、それも無理はなかろうというもの。きっと自らを取り戻す余裕も与えられぬまま槍が引かれ、そしてやはり無惨に泣き狂う月の脇腹を左右より二本の槍が何とも言えずおぞましい音をたてて貫いてしまうのと同時に、その体をひと際無残にのたうち回らせながら、
「ギヒャギャアアアアーアッ…ウグギャアアアーアッ…うあぐあっ…グヒキャアアアーアッ…ぐあわっ…痛いーっ…お願い痛いーっ…母上助けて…お願い助けてぇーっ…。」
と泣き狂い泣き叫んでひと際哀れに訴えるその様は月が殊更に美しい分、殊更に無惨で美しくは有ったが、また哀れにも思えたものだ。しかし左右から脇腹を抉る下人はこの娘の内臓を存分に苛んで槍を引き抜いて、やはりなんとも無惨に泣き狂わせたのだ。

 「残るは美津ただ一人のみ。こやつの体を貫けば今度は最初に戻りて葉の腹に二度目の槍を突き刺すのじゃ。葉が済めば澄、月、美津とこうして順繰りに一人一人槍で刺し貫いていけばさぞ見物であろう。それにしても誰が最初に息絶え、誰が最後までのた打ち回っておるか、ふふ、皆の者も興深いでことであろう。」
そしてその様をいと快げに眺める高通殿はこのように申され、刑場の雰囲気は申し分なく盛り上がっていた。ただしただ一人残っておる美津殿はまだ十五、しかもいかにも子供子供した様子、もちろん母も姉も槍で貫かれてなお死にきれずの取り乱してのたうって声を限りに泣き叫んでいたのだから、それは恐ろしかったに相違ない。
「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィッ…アヒイイイィーイッ…あああっ…いやぁーっ…母上死にたくない…死ぬのはいやぁーっ…あううっ…ヒィエエエーエッ…ひいいいぃっ…怖い…私怖い…死ぬのはいやぁーっ。」
と声を限りに泣き叫び、あらん限りの力を振り絞ってのた打ち身悶える様はまとこに哀れに思えたが、ただ見苦しくなかったのはこの美津という娘が殊更に可愛かったからであろう。しかしそのような美津故、作法に従いて目前で槍を交差されたとき、失禁してしまったのも無理はあるまい。そしてその羞恥と屈辱に、そして恐ろしさにいよいよ無惨にのた打ち泣き狂う美津の目の前で作法通り交差した、もちろん母と姉たちの血をたっぷりと吸っている錆槍の穂先はその量の脇腹を容赦なく貫き、美津はもちろんその可憐な唇よりひと際無残な、
「グアヒギャアアアーアッ…アグギャアアアーアッ…ぎぐあっ…ウアギャアアアーアッ…ひがあっ…痛いよーっ…母上助けて…ギィエエエーエッ…ギヒイイイィーイッ…ぎぃえおっ…。」
と言う声をほとばしらさせて絶叫し、血に染まった体がまさに狂ったと思えるほどに激しく苦悶し捩れておった。もちもん、その槍が引き抜かれれば、この美津という娘の脇腹からは鮮血が内臓とともに無残に溢れ出したのだ。

 その時の刑場に立てられた四本の磔柱には、各々左右より脇腹を槍で貫かれて下半身を朱に染めてのた打ち回って泣き叫んでおった伊方喜三郎直常の四人の妻子が縛り付けられておったが、それは壮観と言ってもよい有様であった。まず一番左端の葉殿は恐らく地獄に違いない責め苦にのたうちながらも、
「ギャグアギィエエエエーエッ…ギウヒイイイィーイッ…娘たちは…娘たちはお許しを…ウギャアアアーアッ…ウヒャギャアアアーアッ…痛いーっ…苦しい…ぐおあっ…痛いーっ。」
と泣き叫びながらも、なおも娘たちを思いやって許しを乞うている様がなんとも哀れで、無惨であり、隣の澄殿はあの落ち着いてしっかりした娘の面影もないままに、
「ぎあおっ…ぐわああ…グァウギャアアアアーアッ…ギヒキイイイィーイッ…ギヒキャアアアーアッ…お許しください…痛いーっ…ぎあおっ…ヒギイイイィーイッ…誰か助けて…いやぁーっ。」
と恥も外聞もなくのた打ち泣き叫ぶ様は殊更に人目を集めずにはおかなんだよのう。
 しかし特に人目を引くほど美しき月殿はそれだけか弱かったのかも知れぬ、その体はぐったりとなって、もはや息も絶え絶えと言った有り様で、
「ヒギャウキイイイイィーイッ…ギアキイイイィーイッ…ぐあおっ…苦しいよう…アギヒイイイィーイッ…あわわっ…死んでしまう…母上…姉上死にたくない…ヒギィエエエーエッ…。」
と苦しげにのた打つ様は果たして二度の槍に耐えられるかと危ぶまれる程であったのう。美津は最も最後に田楽刺しにされた上に元々体力もあったのであろう、そんな月とは対照的にその体を激しくのたうたせて、
「があおっ…母上助けて…グアギャアアアアーアッ…ギグキャアアアーアッ…ぐあがっ…グヒギャアアアーアッ…ぐぎうあ…死にたくない…母上…姉上死にたくない…お願い助けてぇーっ。」
と四人の中でも一際哀れに泣き叫び泣き狂っ衆目を集めておったように覚える。とにかく四人の藩内でも評判の美しい若妻と娘が並んで磔られて地獄の責め苦に苛まれる様は、なんとも言い難いほど無惨でもあり、哀れでもあり、また美しくも有り、高道殿も食い入るようにその様を見入っておられたのだ。

 何々、処刑の子細は分ったがそれではただの磔ではないか、とな。当たり前じゃ。誰があの流布されておるような奇天烈な殺し方などするものか。しかしそれでは四人の死体が現れぬことの説明がつかぬと。うむ、その不審はもっともじゃ。じゃがその理由はこれから話さねばならぬ。ともあれ伊方喜三郎直常の妻の葉、娘である澄、月、美津の四人はこの世のものとは思えぬ無惨さで泣き叫び、のた打ち回っておって、二人の下人は槍を手に下に控えて、高道が二度目の槍を女どもに命ずるを待っておったその時であった。それがしはふと高堅様が側におるように感じたのだ。なぜそのように感じたのかはその時も今となっても分らぬが、その場に高堅殿の姿を感じたその時、突然、
「グァウオオオオッ。」
と高道殿の口よりなんとも言えぬ、そう、敢えて申せばさかりの付いた牡牛の吠えるような声と狼の声を合わせたとでも申そうか、筆舌に尽くし難き声がほとばしったのだ。何事、とそれがしたちは高道殿に目をやるその前で、

                                 処刑乱痴気